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展覧会図録本 特別展 運慶流 2008年Special Exhibition Descendants of Unkei
佐賀県立美術館, 山口県立美術館 編特別展「運慶流」佐賀実行委員会 発行2008年約30x22x1cm125ページ
※絶版
蒙古襲来と運慶流文永十一年(1274)と弘安四年(1281)の二度にわたる蒙古襲来(元寇)は、有史以来未曾有の国家危機として日本全体を揺るがしました。この蒙古襲来を契機に、歴史の歯車は大きく動いていきます。九州を中心とした西国では、異国退散祈願のための寺院が建立され、仏教美術に新風が吹きこまれました。仏像を制作したのは、運慶の流れをくむ「運慶流」の仏師たち。運慶が作り出した力強い迫力のある様式が、災いを退け平安をもたらす仏の姿として求められたのです。この展覧会では、蒙古襲来から南北朝へと続く争乱と混迷の時代に、人々の祈りを託された「運慶流」の美を紹介します。
本書はその図録本。展観作品のうち代表的な33作品のカラー写真図版と、その詳細な解説、論文、大日如来像のX線写真なども収載した、古美術、仏教美術、仏像、骨董品愛好家必携の大変貴重な資料本。
(チラシより)中世の日本をゆるがした蒙古襲来(元寇)とそれに続く南北朝の争乱は、神仏の戦いでもありました。日本全国で仏への祈りがささげられましたが、この時期に九州で活躍したのは、日本を代表する仏師運慶(?~1223)の流れをくむ「運慶流」の仏師たちでした。かつて運慶がつくり出した力強く迫力のある仏の姿が、戦災を退け安寧をもたらす祈りの対象として求められ、その後継者である運慶流の仏師たちが起用されたのでしょう。この展覧会では、運慶の父康慶、運慶、その子湛慶、孫の康円、そして九州に足跡をのこす湛康、康誉、康俊ら迦慶流の仏師たちの作品をご覧いただきます。寺外初公開は6件、九州初公開多数。巨匠運慶を筆頭に美の一大山脈をなす運慶流の魅力をお楽しみください。
【目次より】目次運慶のひみつ序説 山本勉図版第一章 運慶と運慶之一流コラム 2007年の運慶 ほとけの内と外 伝説の仏師=運慶第二章 蒙古襲来と運慶流 湛康門流の活躍コラム 蒙古襲来と中世美術 戦とほとけ 蒙古襲来と運慶流第三章 蒙古襲来から南北朝の内乱へ 康誉と康俊コラム 運慶五代 康誉をめぐって 康俊が二人になるまで論文解説運慶流小伝 竹下正博蒙古襲来の時代 本多美穂作家解説運慶流年表運慶流文献目録出品目録 List of Exhibitions Descendants of Unkei from 12th-14th Century
【一部紹介】運慶之一流 ─初代から六代「運慶流」とは、運慶(?~1223)に始まる仏師一門のことです。息子湛慶、孫の康円、蒙古襲来を機に西国で活躍した湛康(四代)など、近年の研究によって明らかになってきた運慶流仏師の系譜を、運慶の父康慶から六代目康俊の世代まで、重要文化財10件(22体)をふくむ仏像28件(49体)によって紹介します。
運慶の謎をさぐる仏師といえば運慶。誰もが知っている有名な仏師です。しかし運慶の作品は非常に数が少なく、その実態は謎に包まれた部分が多くあります。この展覧会では、運慶流仏師の作品を通して、運慶の謎もさぐっていきます。運慶作の仏像として、光得寺大日如来像が出品されます。
第一章 運慶と運慶之一流運慶とその一門である「運慶流」は、鎌倉時代の幕開けとともに一躍歴史の表舞台に躍り出た。新時代にふさわしく、その造形は豪快で力強いものであるが、それと同時に繊細で端正な一面をもあわせ持っていた。第一章では、運慶流に脈々と受け継がれているその独自のスタイルを、四代湛康から初代運慶、そして父の康慶まで、約一世紀にわたって世代をさかのぼりながら紹介する。
運慶と西国蒙古襲来の時代運慶の没年(1223)から半世紀。文永十一年(1274)と弘安四年(1281)の二度にわたる蒙古襲来(元寇)は、未曾有の国難として日本を揺るがした。危機に直面した西国の武士たちは幕府草創期の奥州征伐における戦勝祈願に範をもとめ、かつて造られ見事その霊力を発揮した運慶仏をいま再びと望んだ。その期待に応えたのが、運慶四代と目される当代一流の仏師湛康である。運慶独特の力強さを受け継いだそのスタイルは、この地における、その後の運慶流繁栄の基礎を築くこととなった。
圧倒的な存在感運慶四代湛康三岳寺の薬師・大日・十一面観音像のみどころは、圧倒的な肉体の量感である。それぞれの像を横から見ると、頭部の大きさ、胸板の厚みに驚かされる。人の姿をかりつつも、それを遥かにこえた存在感がみなぎっており、その圧倒的な量感から生じる霊威こそが、光得寺大日如来像をはじめとする運慶の仏像を髣髴とさせる。この像が造られた永仁二年(1294)は、三度目の蒙古襲来が現実味を帯び西国は極度の緊張状態にあった。異国退散祈願の仏として期待されたことは想像に難くない。
穏やか・端正もう一つの運慶スタイル四代湛康の仏像が持つ力強さとは対照的に、三代康円や二代湛慶の世代の運慶流仏師には、穏やかで端正な造りの仏像が目立つ。承久の乱(1221)をへて落ち着きを見せてきた都では、こうしたタイプの仏が好まれ、力強く量感のあるスタイルはあまり流行しなかった。時代によって様々なスタイルを見せる「運慶流」の多様性は、もともとは、「力強さ」と「端正さ」という相反するスタイルを同時に内包していた運慶の作風に由来する。
運慶のめざしたもの写実を超えた迫真性鎌倉時代の仏像はしばしば写実的だといわれる。とはいえ、運慶の仏像が必ずしも写実的であるというわけではない。光得寺大日如来像の、特に、背中から腰にかけてのボディラインは、写実的な人体表現からはみ出して不自然なまでに肥満している。しかし、運慶はこのように像の奥行を深くすることによって、立体感を強調し、仏として威厳のある姿に造りあげたのである。運慶がめざしたものは、写実的表現を崩してこそ伝わる「迫真性」である。
仏に魂をこめる光得寺大日如来像のX線写真からは、運慶作の仏像に共通する納入品や構造が確認できる。なかでも注目すべきものが「心月輪(しんがちりん)」という仏の魂を意味する水晶玉である。運慶が、像内にこの「心月輪」を込めることによって、仏像は単なる彫刻から、神聖な存在へと変わるのである。これは「仏像に魂をこめる」という強い意識のあらわれである。このような仏像に対する姿勢が運慶独特の存在感・実在感ある仏像を生み出したと考えられる。
(主な作品)作者不詳 金剛力士像 13世紀(福岡・大興善寺)(四代)湛康作 持国天像 1294(佐賀・円通寺)(四代)湛康作 薬師如来像 1294(佐賀・三岳寺)(三代)康円作 愛染明王 1275(京都・神護寺)(二代)作者不詳 釈迦如来 13世紀(佐賀・東妙寺)(初代)運慶作 大日如来 12世紀(栃木・光得寺)光得寺大日如来像 X線写真(撮影:田口榮一)
第二章 蒙古襲来と運慶流 ――湛康門流の活躍中世の日本をゆるがした蒙古襲来(元寇)は「神仏の戦い」でもあった。日本全国で祈りがささげられ、異国と戦う新たな仏像が必要とされた。戦闘の最前線であった九州の地に進出したのは、運慶流の仏師である。なかでも運慶四代の湛康とその門流の活躍は際立っている。かつて運慶がつくり出した力強く迫力のある仏の姿が、戦災を退け安寧をもたらす祈りの対象として求められ、その後継者である彼らが起用されたのである。(五代)湛誉・湛真 十一面観音像 1315(佐賀・東妙寺)
第三章 蒙古襲来から 南北朝の内乱へ ――康誉と康俊元弘三年(1333)鎌倉幕府の滅亡とともに、南北朝の内乱という新たな戦の幕が上がる。仏師も世の流れと無縁ではない。鎌倉時代の余韻をのこす重厚な仏像が造られなくなったわけではないないが、京の都ぶりを示す華美で定型的な作風が一世を風靡する。運慶流にも転機が訪れたのであろう。運慶五代の康誉と、運慶六代の康俊(東寺大仏師)の作風の違いは、この時代の転換を反映しているようにみえる。(五代)湛誉作 如意輪観音像 1340(福岡・大興善寺)(六代)康俊(東寺大仏師)作 金剛薩?像 1359(兵庫・圓教寺)
【出品リストより】(重要文化財=◎、県・府指定文化財=◇、市指定文化財=○)指定 名称 作者 員数 構造・技法 時代 法量記載運慶像 一躯 木造、寄木造り、玉眼・彩色 鎌倉時代 京都・六波羅蜜寺地蔵菩薩像 康慶 (以下略)伎楽面・治道 康慶大日如来像 〈運慶〉狛犬 〈湛慶〉釈迦如来像薬師如来像愛染明王像 康円薬師・大日・十一面観音像 〈湛慶〉持国天・多聞天像 湛康聖徳太子像(南無仏太子)聖徳太子像(南無仏太子) 湛康・湛雅釈迦如来像 湛康聖徳太子像 湛康釈迦如来像 湛誉・湛真十一面観音像 湛誉・湛真多聞天像観音菩薩像 湛勝如意輪観音像 幸心十一面観音像 〈円慶〉如意輪観音像 康誉金剛力士像釈迦三尊像 康誉四天王像 康俊(南都大仏師)普賢延命菩薩像 康俊(南都大仏師)聖徳太子像(南無仏太子) 康成文殊菩薩・普賢菩薩像 〈康俊(東寺大仏師)〉(釈迦三尊脇侍)文殊五尊像 康俊(東寺大仏師)地蔵菩薩像 〈康俊(東寺大仏師)〉金剛薩埋像 康俊(東寺大仏師)釈迦三尊像 〈康俊(束寺大仏師)〉文殊菩薩像 〈康俊(東寺大仏師)〉覚安尼像 〈康俊(東寺大仏師)〉
【作品解説 より 一部紹介】1 運慶像重要文化財木造、寄木造り、玉眼・彩色鎌倉時代(十三世紀)像高77.5京都・六波羅蜜寺一躯僧侶の姿をした壮年の男性の肖像で、像主は運慶と伝えられる。顎のはった骨太の顔立ち、力強い肩、大きな手は大仏師の相好として似つかわしい。眼差しは巧匠と呼ばれるにふさわしいつよい意思を感じさせ、ぴしりと立った襟や両腕にたたまれた鋭い衣文は確かな彫刻技術がっくりなしている。両脇の衣文の折れ具合は、同寺の運慶作の地蔵菩薩像に通じる。十三世紀の優れた肖像彫刻であることは言をまたず、湛慶作との伝承があることははなはだ魅力的である。貞享二年(一六八五)に刊行された京都の案内書である『京羽二重』には「仏工運座湛慶像」が「六はら 十輪院」にあると記されている。いまはない十輪院は六波羅蜜寺の子院であったといわれ、運慶が八条高倉にみずから建立したという地蔵十輪院との縁をとく説もある。六波羅蜜寺には湛慶と伝える肖像のほか、旧十輪院に安置されていたという地蔵菩薩像がつたわる。地蔵菩薩像は瑞林寺の康慶作地蔵菩薩像を力強くした感があり、極めて出来映えが優れていて運慶作とみて間違いない。六波羅蜜寺を開いた名僧空也上人の肖像は運慶の四男康勝が制作していて、当寺と運慶流仏師との縁の深さを感じさせる。
2 地蔵菩薩像 康慶重要文化財木造、一木割矧造り、玉眼・彩色平安時代 治承元年(1177)像高84.0福岡・瑞林寺一躯均整のとれた体躯、流麗な衣文、張りのある若やいだ顔立ちには玉眼が似合い生気がみなぎる。後頭部や臀部の肉付きにもこまやかな気づかいがみられ、細部をゆるがせにしない入念の作であることがしられる。体内に銘文があり、治承元年ニー七七)八月彼岸に大仏師法橋康慶が造り始めたことがわかる。康慶の師である康朝の名が記されることから、康慶が先代の供養のために造立したと推測されているが、胸腹部内には決定往生浄土真言が記され、彼岸に造り始められていることもその意見を補強する。近親者の供養のために彼岸に造像を始める例は、十三世紀にくだるが、正嘉三年(1159)の東京国立博物館の阿弥陀如来像(永仙作)がある。運慶が一族の菩提寺である地蔵十輪院に安置するために制作したと考えられる京都・六波羅蜜寺の地蔵菩薩像とよく似ていて、ともに等身大であり密接な関係が予測されるが、先人のための追善という願意のうえからも両者は性格を同じくする。六波羅蜜寺像が運慶の菩薩像としては珍しく玉眼を採用することについて、本像が先例となった可能性も検討すべきであろう。瑞林寺は江戸時代に開かれた黄檗の禅寺であるが、開山の鉄牛道機が記した『福寿山瑞林寺記』には、この地蔵菩薩像を迎えて本尊としたことが記される。瑞林寺は延宝元年(1673)の創建と伝えるので、本像の伝来についてそれ以前のことはわからない。
ほか
★状態★2008年発行の古い本です。外観は通常保管による背を中心とした経年並ヤケ、スレ程度、カラー写真図版良好、目立った書込み・線引無し、問題なくお読みいただけると思います。(見落としはご容赦ください)
<絶版・入手困難本>オークションにも滅多に出ない、貴重な一冊です。古本・中古品にご理解のある方、この機会にぜひ宜しくお願いいたします。
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